茅屋雑記帳

ボンクラ主婦きすけの気ままな日記

愛車 (3)

別れは、唐突に訪れた。

初夏の或る休日。
新緑に誘われるように、奥三河へ向かった。
途中、珈琲でも、と、喫茶店の駐車場に彼を停め、
「ちょっと待っててね」
入口に歩き出したとき、
【 ガシャーン 】
背後で大きな音が。

何と、私のアルトに正面からランクルがぶつかり、壁との間に挟まれている。
だっと駆け戻り、
「これ、どういうこと!?」
その場でおろおろしている、私と同じくらいの年頃であろうカップルに詰め寄った。

運転者の青年は、
「すみません、すみません」
半泣きで繰り返すばかりだし、同乗の彼女も、地べたにしゃがみ込んでしくしく。

やめてよ…。
泣いていいのは、アルトだけ。
痛い痛いって言っているのが、聞こえないの?
私は、涙も出なかった。

お店の方に連絡をお願いし、見分に来たお巡りさんは、淡々と職務をこなしておられるが、
「そろーっと停める駐車場で、何でこんなひどいことになるんだ?」
「お嬢ちゃん、中にいなくて不幸中の幸いだったね」
どこからか集まった野次馬のおっさんたちは、口々に呆れていた。
聞けば、アクセルとブレーキの踏み間違いだったらしい。

無残な姿となったアルトの傍らで、きっと真っ青な顔をしていたのだろう。
茫然自失状態の私に、
「ここでゆっくり落ち着いて親御さんを待ったらいいよ」
マスターが人目につかぬ席へいざなって下さり、奥さんは、
「ほんの気持ちだけのおごりだから、食べて」
ハムトーストを拵え、珈琲と共に出して下さる。
みっともなくはあれど、それで急に涙がぽろぽろ。
思えば私は、事ある毎に人さまの温情を受けて来たのだなあ…勿体ない。


アルトは、相手方の保険会社が手配したレッカーに連れられていった。
そして、その後、廃車という運命になってしまった。

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