茅屋雑記帳

ボンクラ主婦きすけの気ままな日記

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宙に浮いた光景

身近なところでとんでもない事件が起きた。

辺りは悲鳴や怒号が飛び交い騒然としていたが、頼みのおとんは普段通り残業中
何事かと飛び出し、私より一瞬先に、一目で、事態を知ったぼうずが振り向くや否や、
「あかん、あんたは見たらあかん!」
視界を遮ろうと柔道選手が奥襟をとりにくるような格好で覆い被さった。

現場を取り囲む大勢の警察官。
到着の際のけたたましさを忘れ、押し黙ったまま空で引き上げてゆく二台の救急車。
迅速に広げられた青いビニールシートはなだらかな人の形に盛りあがっている。
何なのだろう、この光景は。
ガチガチと歯の根が合わぬくらいのショックを受けつつも、全く現実感がない。



日数が経ち事件の詳細が明るみになった後は、怒りとやりきれなさばかりが残った。
精神の安定を欠いたり、中には急性ストレス障害の症状に陥ってしまったりと、
周囲には恐怖、不安、形容の難しい屈託等、心の怪我を抱え続けている人が一杯だ。
カウンセリングを受ける程ではないが、私もつい先日までナマ物を食べられなかったし、
大きな声や物音、緊急車両のサイレンにはいまだにビクビクしてしまう。

「おれらにはおれらの生活がある。
 いつまでも憂鬱な気持ちを引きずっとるわけにはいかん。
 おれは絶対こんなことに振り回されへん」
ぼうずはそう言い切る。
事件当日も思ったが、ちゃらちゃらしているようで知らぬ間に随分逞しくなったものだ。
けっ、ついでに息子自慢かい、と嘲笑いたい人は存分に嘲笑ってくれ。
この心根がどんなに嫌らしかろうが別の方向に考えを持っていかなきゃやっとれんわ。

実際、私の日常自体に特別の変化はない。
現実感のなかったあの光景は、遠くにある黒雲の如くぽっかり宙に浮いているだけだ。
時々気味悪く光り雷鳴を唸らすが、それに呼応し自らどろどろ言っても詮ないのである。

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