ボンクラ主婦きすけの気ままな日記

私は蕎麦が好きだ。
若い頃の休日など、目覚めた瞬間蕎麦スイッチが入り新幹線でおのぼりさんしたり、
信州を目指したりと、ただ蕎麦屋巡りのためだけに忙しい日帰り旅を強行したことも。

今でこそ『さぬきうどんツアー』『富士宮焼そばツアー』『ソースカツ丼ツアー』等々、
特定の食べ物やご当地グルメに的を絞った旅のスタイルが珍しくなくなり、
さまざまな個人ブログにもめっちゃ楽しいヨダレ情報が賑やかに踊っているのだが、
ふた昔前にゃそんなことをする奴は単なる馬鹿だったので、行動は常に単独。
フッ、池波正太郎の世界に触れるのさ…と呟いていたのだった、フッ、馬鹿の上塗りさ。

結婚後も、家族でドライブというときにはその土地の蕎麦処へ寄ることがよくあった。
普段はうどん派の男どもだが、旅情として受け入れたようだ、でないとうるさいしな。
まあ、美味しい蕎麦には“お、うまい”との声が上がったんで、良しとしとこ。

先日、建物自体がたぬきといういかにも信楽なお店の画像をアップした。
実際に訪れたのは夏のことだが、勿論やきものの町の風情を愉しむだけではない。
近江は近年ちょっとした蕎麦の激戦地ともなっているのだ。
当然目当てのお店があり、その中の一軒『作美』へ。

山あいのわかりにくい場所にありながら何組も待ちができている『作美』の蕎麦は、
風味が落ちる時期だというのに香り高く、美味しかった。
また、もちもちの蕎麦豆腐にも、一口と言いつつ半分貰ったおとんのかやく御飯にも、
さらにはお店の方々の丁寧で温かな応対にも、ただただにっこり。

腕前に誇りを持っていようが、俺ぁ蕎麦に命をかけてんだシャキーンな名人だろうが、
美味しいかそうでないかを判断するのはやっぱり客のほうである。
うまいもんを食わせてやるんだからこっちのルールに従え的ピリピリ店は苦手だ。
だって、蕎麦が食べたくて暖簾をくぐるんだもーん、“蕎麦道”の修行じゃなく。

今日びは自信のあるお店じゃ蕎麦に塩をつけて食べよと勧めるのが倣いのよう。
『作美』も同様だったが、
「こういう食べかたもちょっと試してみて下さい、美味しいですよ」
「はい…わ、ほんとだ、いいですねえ!」
と素朴に喜べる、とても気持の良い会話であった。

それにしても。
蕎麦は元々気軽に手繰るものだった筈なのに、今や随分高い食べ物と化した。
というより、美味しい蕎麦を提供しようとこだわれば自然に高くなっちゃうんだろう。
『作美』の会計は実に正当、美味しい蕎麦には満腹感など求めるものではない。
すっかり堪能して店を出た我々夫婦が堪能したにも関わらず車に乗った途端、何故か、
「なあ、○屋のおやっさんって、タダモノっちゃうて思わへん?」
と、図らずも同時に近所の店の名を口にしたのは、ひとえに田舎もんだからである。

が、○屋は確かに凄い。
蕎麦もうどんも丼もやっている、サンダルつっかけて入れるようなこじんまりしたお店、
地元じゃ人気(殊にうどん)でも、開店直後から待ち時間何十分などということはない。
おやっさんも釜場から“らっしゃーい”“毎度おおきに”と声をかける気取らぬ人で、
蘊蓄とは無縁、しかも、サンダルつっかけ家族向けプライスで満腹になる。
なのに、美味しいのだ、そこらの“蕎麦道”店より本格的に。

蕎麦に限らず、こういった近所の名店ってのは誰にもあるのだろう。
知らぬ間に自分のスタンダードとなってしまっているような。

うーん、と唸る
(と聞いた)蕎麦をわざわざ食べに行くのは愉しい。
今後も開拓したいし、『作美』にも是非また寄せて貰うつもりだ。
しかし、あのおやっさんちに帰ることができる幸せは忘れちゃいかん、と、
一盛りの蕎麦のことでやたら大袈裟に構えてみるひとえに田舎もんな私なのであった。

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